七月歌舞伎座・夜の部(7/7)

通し狂言『星合世十三團』 義経千本桜の通しを海老蔵が早替りで全て見せる趣向の芝居。海老蔵の古典、特に丸本物は形だけなぞる様で実や深みに乏しく、期待を裏切られる場合が往々にして多い。が、一つ一つの段を本尺でしっかり見せるのではなく、早替りという外連味を軸にし……

舞台『魍魎の匣』(6/21)

ミステリーの舞台化といえば昨年の新派公演『犬神家の一族』の大成功が記憶に新しい。その成功はひとえに台本と演出の良さ、ベテランから若手まで演者の熱演の賜物ではあったものの、根本には横溝正史と新派の芝居、それぞれに通底する「消えゆくものへの哀惜の情」が見事なま……

六月歌舞伎座・夜の部(6/20)

三谷かぶき『月光羅針路日本』 一幕が終わった時点では、これは駄目かと思った。 松也の使い方は新鮮でとても良く、馴染みの歌舞伎座をまるで別の空間の様に感じさせ、「これはこれからとんでもない事が起こるのではないか」と鳥肌の立つ様な期待を感じさせた。が、幕が開い……

きみと、波にのれたら

【湯浅政明監督一流の表現主義的な芸術路線でくるのか、あるいは逆に最近流行の叙情的な「泣かせる」路線でくるのか、そのどちらかなんだろうな……と予想していたら、そのどちらでもなかった。少女漫画的王道路線をあえて貫いた優れた脚本と、美しく切なく描かれる「水」のア……

六月歌舞伎座・昼の部(6/16)

『寿式三番叟』 人品そのものが要となる東蔵翁の立派さを除き、この幕で最も三番叟らしい景色を見せたのは松江だった。もう少し軽さに振るか、重さに振るか、どちらかに偏りを作ればより一層存在感を際立たせられたのではないかと感じるが、ふんわりした存在感もまたこの人一……

ザ・バニシング─消失─

【一本の映画が、まるで生きる事そのものを表現しつくしているかの様な驚くべき傑作──。人生は色々な分岐と偶然に充ちている。一歩間違えれば「死」が待つ綱渡りを辛うじて生き残った夫婦の物語がキューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』。この映画はその逆、皮肉な運……

四月歌舞伎座・夜の部(4/21)

『実盛物語』 小万の腕を落とす顛末の「物語」、瀬尾の自害の後の顛末だけが能動的な見せ所で、あとはほとんど聴き役という実盛。しかし、その黙って聴いている間も仁左衛門の実盛は非常に精神が安定していて、信用できるひととなりが(平家からすればどうかという点はさて置……

ねじれた家

【市川崑の金田一耕助映画の様に陰影深くてスタイリッシュ。70年代のクリスティー映画ほど豪華絢爛な「ザ・オールスター」感はないが、実力的にはそれに匹敵する演技力と存在感のある名優たちが揃っている。そして、屋敷の内装、登場人物と一緒に映り込む絵画・肖像写真で人……

幸福なラザロ

【詩情豊かで美しく、ほろ苦く、人生への示唆に富んだ「イタリア映画」……その豊穣の歴史の高純度の結実。ロッセリーニ的でもあり、ヴィスコンティ的でもあり、フェリーニ的でもある。しかし、かといってそのどれでもない。イタリア映画の歴史とヨーロッパの神話、そして世界……