屍人荘の殺人

浜辺美波と神木隆之介がとにかくかわいい。しかし、この映画の主役は間違いなく中村倫也。そして、その中村倫也=明智恭介に注視して観れば、この映画は単に原作のコメディー化というものでなく、「日本のミステリー映画、保守本流の美学」に則し、かつ、それをアップデートす……

十二月歌舞伎座・夜の部(12/15)

心霊矢口渡 最も良かったのは梅枝のお舟。その次が萬太郎の下男六蔵。 お舟が良いのは見物としても嬉しい事だが、次に挙がるのが下男六蔵というのは、やはり芝居としては少々不甲斐ない。 義峯とうてなは、まぁ、それほど押し出す役でもなく、何が悪かったという訳ではなく……

十月歌舞伎座・夜の部【偶数日】

通し狂言 三人吉三巴白浪 このところ、黙阿弥の言葉の美学・世界の広がりを感じさせる力をもたない「大川端」の見どりばかり見せられていたので(現在、大幹部以外でこの幕の見どりを成立させ得る役者はいない。そんなつまらない見取りを掛けるのはもうやめた方がいい)、久……

九月歌舞伎座・夜の部【奇数日】

寺子屋 幸四郎の武部源蔵、物思いに耽りながらの沈鬱な出が大変良かった。が、その沈鬱な芝居に引きずられてか、続く戸浪への物語りの描写にドラマチックな起伏がやや乏しい。ここでもう少し源蔵の覚悟のほどを描いて見せてくれれば、一連の出来事ののっぴきならない状況に一……

セイジオザワ松本フェスティバル『エフゲニー・オネーギン』(8/20)

メトロポリタンオペラの映像ソフトとしても観る事が出来るこのロバート・カーセンの演出プロダクションは、全編をオネーギンの回想と位置づけ、シンプルなセットながらもこの恋愛心理劇の核心を見事に射抜いた本オペラ演出の決定版──と評して過言ではないと思う。この演出を……

八月南座超歌舞伎(8/17昼)

タイムテーブルを見ると「超歌舞伎のみかた」25分、幕間20分、「お国山三」15分、長幕30分、「今昔饗宴千本桜」70分と、演目が短いわりに幕間が長く、ちょっとセコイ考えなのだけど「これはコスパが悪いのでは?」と出掛けるのをためらう気持ちが少々あった。が、実……

八月歌舞伎座・第三部『新版雪之丞変化』(初日)

市川崑の映画版『雪之丞変化』はモダンな映像美が素晴らしかったが、主役の長谷川一夫が大石内蔵助の様に男っぽく立派すぎて、今ひとつ「雪之丞」というイメージではなかった。今回の玉三郎は「雪之丞」(そのタイトル・役名だけでえもいわれぬ美しさを想像させる美麗な女形)……

第五回 晴の会『肥後駒下駄』(8/4 夜)

あべのハルカス下近鉄百貨店、近鉄アート館。三面囲みフォーメーションの出舞台と定式幕が開閉される背後の本舞台、大道具小道具は必要最小限。言葉にすると、それは小劇場的、実験的試みに拠って立つ、近年盛んな「演劇的歌舞伎」の一種の様に聞こえるかもしれないが全くそう……

天気の子

初めて観た新海作品『君の名は。』が全くダメで、「評判の新海誠ってこんな人なの?」と、確認のために遡って観てみた過去作品がことごとく合わず、今回の『天気の子』がまたダメだったらこの人の映画を観るのはこれで最後にしよう──と思って映画館に出掛けた(だったら観な……

七月松竹座・夜の部(7/19)

『葛の葉』 時蔵の葛の葉である、という以外、特に言うべきことない葛の葉。その安定を流石と思うか退屈と思うかは個々時々の気分によるものかもしれない。子役とのやりとりにあと少し突き抜けるところがあれば、芝居全体の情感はより味わい深いものになったのではないだろう……