タイムテーブルを見ると「超歌舞伎のみかた」25分、幕間20分、「お国山三」15分、長幕30分、「今昔饗宴千本桜」70分と、演目が短いわりに幕間が長く、ちょっとセコイ考えなのだけど「これはコスパが悪いのでは?」と出掛けるのをためらう気持ちが少々あった。が、実際観てみると内容が充実、体感的には三部制の芝居の一部をじっくり観るのと同程度の満足感と充足があり、幕間で間延びする感じもあまりなかった。そのあたりの理由で躊躇している方がいれば(そんなセコイ考えの人は僕ぐらいかもしれないが)、これは思い切って観た方が良い。

『超歌舞伎のみかた』は蝶紫と國矢の流石年の功の話術とテンポの良さ、電話屋のテクノロジーの紹介と観客の舞台体験で飽きさせず、内容にも充実感がある。国立劇場・鑑賞教室の若手の解説も爽やかで良いが、今回の「歌舞伎のみかた」は演目として充分成り立っていると感じた。

『お国山三』は獅童の山三が絶妙な品とたおやかさをにじませて、いつの間に獅童はこんなにも良い雰囲気を身にまとっていたのかと驚いた。これは来月の民谷伊右衛門も充分期待できる。筋書きを求めていないので詳細は判らないが、歌舞伎役者と共に踊る女性(?)の舞手にも南座らしい風情があって、この演目は南座超歌舞伎にぴったり、たった15分とは感じない豊かな情景が広がった。

『今昔饗宴千本桜』、幕張の超歌舞伎は観ておらず、初音ミクにもあまり造詣があるわけでもない。が、以前初音ミクのライブ『マジカルミライ』のテレビ中継を僕はちらりと観たことがある。その放送を観るまで、初音ミクの人気の凄さは知ってはいたものの「とはいえ架空のプログラム・キャラクターなんだから、それをライブって言うのはどうなのよ?」と(特に悪く考えていた訳ではないが、その辺りがまだ釈然としておらず)「さて、どんなものか」と思って観てみたところ、そのステージ上、透明なアクリル板スクリーンに等身大で表示される初音ミク&他のボーカロイドたちにはテレビで観ても鳥肌が立つほどの「実在感」とカリスマ性があり、これはたしかにまごう事なき「ライブ」だし、できるならこの魅力的なライブを是非一度観てみたい──という思いにとらわれるまでに感動してしまった。しかし、初音ミク、他ボカロの楽曲を全然知らないため、マジカルミライに出掛けるにはまだ至っておらず、「歌舞伎ならば解るだろう」という思いで今回は南座に出掛けた。

結論から言うと、演目内容、構成、役者、映像のみパートのクオリティーは非常に満足。しかし、通常スクリーン映写の方式が良くない。

演出や予算上の都合などあるのかもしれないが、白いスクリーンに映写される映像では役者とボカロの「共演」という斬新な感動は薄く、残念ながら、それは「映写」&「芝居」という範疇の「効果」という印象にとどまってしまった。

テレビではあれ以前マジカルミライを観た時、透明なスクリーンにホログラムの様に登場した初音ミクは本当に実在しているかの様で、そのレベルのテクノロジーで歌舞伎役者と共演すれば、「超歌舞伎」は完全に歌舞伎の新たなフェーズに達していた事だろうと思う。幕張のニコニコ超会議でもこの普通のスクリーンだったのだろうか? もし、ニコニコ(幕張)では歌舞伎が新鮮ゆえの熱狂であり、また、歌舞伎(南座)ではボカロが新鮮だから大入り……というのならば、この公演は単に瞬発的な余興「徒花」に終わってしまう。願わくは、この超歌舞伎を「徒花」には終わらせず、是非、役者とボカロの「共演」と実感出来るレベルのクオリティーで見せてもらい、継続的な一つのジャンルとして発展せさて欲しい。

「歌舞伎ファンにはこの程度のテクノロジーでも斬新だから良いだろう」などとよもや思っている訳ではないとは思うが、やはり、より新しいテクノロジーに一度感動してしまった者としては、それよりも見劣りする技術で見せられてしまっては妥協、追求心の欠如と見えてしまうし、今回の長期公演の大入で客の「見込み」はついたのだから、そこは是非とも適切な予算を使って「共演」のレベルまで初音ミクの活躍を引き上げて欲しい。

演出や役者のパフォーマンスは新しく、かつ歌舞伎的な魅力も充分あったので、残る問題はただそれ一つと感じた。


1 のコメント

  1. 初めまして。この度初めて超歌舞伎をご覧になったとのことで興味深く記事を拝見いたしました。
    私は超会議の超歌舞伎を拝見したのち南座に参加しましたので、いくつか気がついた点をコメントしたいと思います。
    ミクさんのスクリーンの違いは、私には分かりませんが、幕張メッセの会場は広すぎて、スクリーンと客席が遠く、南座の方が近くではっきりと見えるので、より立体的に美しく見えました。
    一方の超会議では、同時にAR処理を施された生放送があります。そのAR処理により、ミクさんが完全に獅童さんの横に並んだら、前に出たりします。青龍は客席の上を飛びます。
    生放送ではデジタルとアナログが完全に融合しており、現実との境界線がわからない迄に共存している映像技術に感銘を受けました。
    また、コメントでの大向こうや解説もとても面白いです。
    8月26日の千穐楽は唯一生放送されます。1500円と有料ではありますが、記事を読む限り、一見の価値はあると思いました。
    是非生放送も見てみて下さい。

    通りすがりの超歌舞伎ファン

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