きみと、波にのれたら

【湯浅政明監督一流の表現主義的な芸術路線でくるのか、あるいは逆に最近流行の叙情的な「泣かせる」路線でくるのか、そのどちらかなんだろうな……と予想していたら、そのどちらでもなかった。少女漫画的王道路線をあえて貫いた優れた脚本と、美しく切なく描かれる「水」のア……

六月歌舞伎座・昼の部(6/16)

『寿式三番叟』 人品そのものが要となる東蔵翁の立派さを除き、この幕で最も三番叟らしい景色を見せたのは松江だった。もう少し軽さに振るか、重さに振るか、どちらかに偏りを作ればより一層存在感を際立たせられたのではないかと感じるが、ふんわりした存在感もまたこの人一……

ザ・バニシング─消失─

【一本の映画が、まるで生きる事そのものを表現しつくしているかの様な驚くべき傑作──。人生は色々な分岐と偶然に充ちている。一歩間違えれば「死」が待つ綱渡りを辛うじて生き残った夫婦の物語がキューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』。この映画はその逆、皮肉な運……

四月歌舞伎座・夜の部(4/21)

『実盛物語』 小万の腕を落とす顛末の「物語」、瀬尾の自害の後の顛末だけが能動的な見せ所で、あとはほとんど聴き役という実盛。しかし、その黙って聴いている間も仁左衛門の実盛は非常に精神が安定していて、信用できるひととなりが(平家からすればどうかという点はさて置……

ねじれた家

【市川崑の金田一耕助映画の様に陰影深くてスタイリッシュ。70年代のクリスティー映画ほど豪華絢爛な「ザ・オールスター」感はないが、実力的にはそれに匹敵する演技力と存在感のある名優たちが揃っている。そして、屋敷の内装、登場人物と一緒に映り込む絵画・肖像写真で人……

幸福なラザロ

【詩情豊かで美しく、ほろ苦く、人生への示唆に富んだ「イタリア映画」……その豊穣の歴史の高純度の結実。ロッセリーニ的でもあり、ヴィスコンティ的でもあり、フェリーニ的でもある。しかし、かといってそのどれでもない。イタリア映画の歴史とヨーロッパの神話、そして世界……

三月歌舞伎座・昼の部(3/17)

『女鳴神』 『鳴神』の騙しと堕落の濃密なドラマの男女を入れ替え版……男女逆だとちょっと重たそう……と思っていたが、全然そんなことはなく、随分と大らかな作り変え作だった。少し色っぽい所作事という風情で、孝太郎と鴈治郎の上方の風情が大変映える。 『鳴神』はやは……

三月歌舞伎座・夜の部(初日)

『盛綱陣屋』 言うまでもなく……と言う以上に、当然ながら……というどころではなく仁左衛門が素晴らしい。 この人自身が能動的な芝居を演じて見せる場面が「格好良い」「見事な絵面になっている」という事は言うまでもなく(言うまでもなくとばかり言っている)、注進を受……

運び屋

【役者と監督、Wの意味で「嘘(フィクション)作り」の大名人、クリント・イーストウッド。もしかするとこの映画、そんな彼自身の人生の総決算、主人公が情熱を傾けた儚い花デイリリー──最高に美しく、最高に感動的な最後の一咲き……となるのかもしれない】 「もう自分が……