九月歌舞伎座・夜の部【奇数日】

寺子屋 幸四郎の武部源蔵、物思いに耽りながらの沈鬱な出が大変良かった。が、その沈鬱な芝居に引きずられてか、続く戸浪への物語りの描写にドラマチックな起伏がやや乏しい。ここでもう少し源蔵の覚悟のほどを描いて見せてくれれば、一連の出来事ののっぴきならない状況に一……

セイジオザワ松本フェスティバル『エフゲニー・オネーギン』(8/20)

メトロポリタンオペラの映像ソフトとしても観る事が出来るこのロバート・カーセンの演出プロダクションは、全編をオネーギンの回想と位置づけ、シンプルなセットながらもこの恋愛心理劇の核心を見事に射抜いた本オペラ演出の決定版──と評して過言ではないと思う。この演出を……

八月南座超歌舞伎(8/17昼)

タイムテーブルを見ると「超歌舞伎のみかた」25分、幕間20分、「お国山三」15分、長幕30分、「今昔饗宴千本桜」70分と、演目が短いわりに幕間が長く、ちょっとセコイ考えなのだけど「これはコスパが悪いのでは?」と出掛けるのをためらう気持ちが少々あった。が、実……

八月歌舞伎座・第三部『新版雪之丞変化』(初日)

市川崑の映画版『雪之丞変化』はモダンな映像美が素晴らしかったが、主役の長谷川一夫が大石内蔵助の様に男っぽく立派すぎて、今ひとつ「雪之丞」というイメージではなかった。今回の玉三郎は「雪之丞」(そのタイトル・役名だけでえもいわれぬ美しさを想像させる美麗な女形)……

第五回 晴の会『肥後駒下駄』(8/4 夜)

あべのハルカス下近鉄百貨店、近鉄アート館。三面囲みフォーメーションの出舞台と定式幕が開閉される背後の本舞台、大道具小道具は必要最小限。言葉にすると、それは小劇場的、実験的試みに拠って立つ、近年盛んな「演劇的歌舞伎」の一種の様に聞こえるかもしれないが全くそう……

天気の子

初めて観た新海作品『君の名は。』が全くダメで、「評判の新海誠ってこんな人なの?」と、確認のために遡って観てみた過去作品がことごとく合わず、今回の『天気の子』がまたダメだったらこの人の映画を観るのはこれで最後にしよう──と思って映画館に出掛けた(だったら観な……

七月松竹座・夜の部(7/19)

『葛の葉』 時蔵の葛の葉である、という以外、特に言うべきことない葛の葉。その安定を流石と思うか退屈と思うかは個々時々の気分によるものかもしれない。子役とのやりとりにあと少し突き抜けるところがあれば、芝居全体の情感はより味わい深いものになったのではないだろう……

七月歌舞伎座・夜の部(7/7)

通し狂言『星合世十三團』 義経千本桜の通しを海老蔵が早替りで全て見せる趣向の芝居。海老蔵の古典、特に丸本物は形だけなぞる様で実や深みに乏しく、期待を裏切られる場合が往々にして多い。が、一つ一つの段を本尺でしっかり見せるのではなく、早替りという外連味を軸にし……

舞台『魍魎の匣』(6/21)

ミステリーの舞台化といえば昨年の新派公演『犬神家の一族』の大成功が記憶に新しい。その成功はひとえに台本と演出の良さ、ベテランから若手まで演者の熱演の賜物ではあったものの、根本には横溝正史と新派の芝居、それぞれに通底する「消えゆくものへの哀惜の情」が見事なま……

六月歌舞伎座・夜の部(6/20)

三谷かぶき『月光羅針路日本』 一幕が終わった時点では、これは駄目かと思った。 松也の使い方は新鮮でとても良く、馴染みの歌舞伎座をまるで別の空間の様に感じさせ、「これはこれからとんでもない事が起こるのではないか」と鳥肌の立つ様な期待を感じさせた。が、幕が開い……